TAMISA

[Eri]「内なる旅」ヴィパッサナー瞑想

私が、初めて、ヴィパッサナー瞑想に参加したのは、約一年半前。2019年の末から2020年の始まりを挟んでの10日間です。

静かで厳かな最高の経験だったことを、今でも鮮明に覚えているのです。

この貴重な体験をいつか、記しておきたいなあと思いながら、この機会にシェアさせてもらうことにしました。

「ものごとをありのままに見る」という意味のヴィパッサナーは、インドの最も古い瞑想法のひとつです。この瞑想法は2500年以上も昔、インドで「生きる技」として指導されました。その教えは今日まで世界各地で伝えられているのです。

日本にはヴィパッサナーセンターが二ヵ所あります。京都のダンマ・バーヌセンターと、千葉県のダンマーディッチャ・センターです。また、インドおよびアジア諸国には多くのセンターがあります。北米には10 のセンター、中南米には 3 つ、ヨーロッパには 7 つ、オーストラリア・ニュージーランドには 7 つ、中東には 1 つ、そしてアフリカに 1 つのセンターがあります。

ヴィパッサナー瞑想は、刑務所でも教えられています。 また、企業経営者や政府高官を対象としたヴィパッサナーの特別10日間コースは、世界の複数のセンターで定期的に実施されています。

合宿コースは寄付のみによって運営されていて、すべての経費は、コースを終了し、ヴィパッサナーから恩恵を受けた人たちの「他の人たちにもこの機会が与えられるように」との思いから行う寄付によってまかなわれています。瞑想の指導者も何ら報酬を受け取りません。ボランティアのスタッフが、食事の準備から掃除など全てをサポートされています。

ヴィパッサナー瞑想は、10日間の合宿コースで構成される、完全に沈黙を保ちながら瞑想の練習に励むものです。

センターに到着したら、携帯電話を預けて、10日間は外部との接触を一切断ち切ります。このコースの間は、他の瞑想者とコミュニケーションをとることを一切禁止されます。私が参加した時は、女性の生徒さんと男性の生徒さんが各30名程おられたと思います。話すことはもちろん、アイコンタクト、ボディーランゲージ、手紙を書くこと、いかなるコミュニケーションも禁止です。

その他、ヨガの練習をすること、字を書くこと、本を読むこと、全ての個人でのアクティビティーも禁止です。

毎朝4時に起きて、4時半から21時まで座ります。(瞑想することを座ると書いていきますね。)座る時間は1時間〜2時間で、その間に朝食・昼食・ティータイムと休憩を挟みますが、一日で計10時間座ります。

10時間を10日間です。このコースで私は、100時間座ったのです。「クレイジー!!」「どうかしている。」と思われる方もおられるかもしれません。

私が、今まで受けたトレーニングの中で一番極端で、集中的なコースだったと同時に、今まで受けたどのトレーニングよりも、効果的な練習でした。

このヴィパッサナー瞑想、以前から興味は持っていたものの、自分には、まだ参加する準備が整っていないと、長い間、ためらっていました。

いつか「その時」が来るのを待っていたのです。そして、2019年の末、「その時」がやってきたようです。

私は、6人部屋に配置されました。男性部屋と女性部屋は、食堂を含めて、完璧に分かれていて、自分の部屋で瞑想をしていい時間もあれば、男女全員揃って大部屋で一緒に座る時間もあります。

私にとって「沈黙を保つ」という点に関しては、一切億劫ではなく、むしろ楽でした。人とコミュニケーションをとるということ、特に初対面の人とコミュニケーションをとるには、少なからず気遣う努力が必要なものです。毎日、同じ部屋で寝て、起きて、一緒に座り、食事をしているのに一切のコミュニケーションを取らないのは、変ですよね。でも、面白いことに、コミュニケーションをとっていなくても、お互いの感じていることが通じているように思える瞬間が何度もありました。

お昼休憩に、お庭で太陽を浴びている時は、みんなの幸せな気持ちが漂っていたし、ある日の夜、じっと空を見上げている人を見つけて、私も空を見上げると、そこには満点の星空が広がっていた時にも感動を共感している気持ちになりました。どれくらい眺めていたのかは分からないけど、気づいてみたら、周りのみんなが、ただ、空をじっと眺めていた瞬間は、美しかったです。"Silent Heaven" だと思いました。

長時間座り続けるということは、私にとって身体的に簡単ではありませんでした。それでも、とにかく座り続けました。

無常。全ては一時的なんです。全ては刻々と変化していくのです。

座っている間、痛みや痺れ、かゆみなど、強い感覚がそこにある時、何度も自分に言いました。「過ぎ去るよ。」

静かに座って、感覚や感情など、そこにある全てを、ただ観察している間に、「無常」を体現しました。引き続き、ただ座りつづけているうちに、自分の視点がシフトし始めていることに気づきました。それらの強い感覚がもう気にならなくなっていることに気づいたのです。

3日目、とても自分のコンディションが良かった日、私のマインドは静かで集中していました。

座っている時に、自分の内側の "Home" を再発見しました。暖かくて、安全で、リラックスできる場所です。この場所が内側にあることは知っていました。

私は、モントリオールで出会った Donald という瞑想の先生がいます。モントリオールに住んでいる間、彼とよく一緒に座ったものです。その時のことを思い出し、私の内に、とても暖かい基盤を植え付けてくれたことに感謝しました。懐かしさと喜びで涙が流れました。

そのことに気付き、自分の意識を呼吸へ戻しました。

意識を呼吸へと向け続けていたと思います。そこで、何か新しい体験をしたのです。その時、そこには、「私」はいなくて、「マインド」もなくて、でも、フレームも定義もない私の存在がありました。それが何と呼ばれる体験かは分かりませんが、私はこの宇宙の中の一つのエネルギーでした。全てが溶け込んでいて融合したような感じです。その瞬間から、新しい扉が開きました。

私は、この発見にとてもエキサイトしていたし、この体験のことを、先生に尋ねるべきだと思いました。そして、どうにかして、またこの体験をしてみたいと望んでいたのです。毎晩、最後の瞑想の時間の後に、講話の時間があります。その夜の講和で、先生がおっしゃいました。「座っている間、様々な感覚を感じるかもしれません。でも、どんな時も、それに対して反応や反発をしないこと。ただ、それらを観察しなさい。いつでも渇望を抱くと同時に嫌悪の気持ちがついてきます。」

私は頷きました。私が何か欲しいと思う時、でもそれが手に入らない時、「どうして?なぜ手に入らないの?」と、そこにはフラストレーションが生まれます。それは、まさに渇望と嫌悪だと感じました。

その夜、私は、先生に尋ねる必要はなく、このシンプルな真実を学んだのでした。

毎晩、眠りにつく前、身体の疲労感をよそに、私は満たされた気持ちと、新しいアドベンチャーが始まった、わくわくする気持ちでいっぱいでした。

少なくとも、私には、ヴィパッサナーの教えは、シンプルで明解なものでした。先生は、なぜ私たちがこの練習をするのかを順を追って、分かりやすく説明して下さいました。それは、「心の化学」だと思いました。ヴィパッサナー瞑想がとても効果的だったのは、練習にしっかりとコミットすることにあると思います。

論理や、学説は、本を読んだり、ワークショップに参加すれば、理解はできるかもしれません。その後、しばらくは理解したことに満足するかもしれません。でも、そこで得た情報は、意識のほんの表面にしか残らず、潜在意識までには残らないのです。だから、時が経てば忘れてしまうのもしばしばです。

私達は瞑想の練習によって、身体を通して、「平静な心」を保つことを培います。「平静な心」とは、どんなカオスな状態でもバランスのとれたマインドを保つことです。「平静な心」は、私達が見る何にも心を囚われることなく、観察する力と共に現れます。身体を通しての経験は、潜在意識に残るのです。だから私達は、練習するのだと思います。

例えば、寝ている時です。身体は寒いと感じたら、無意識のうちにも布団を自分でかけなおしたり、蚊が飛んできたら、パチンと叩いたりしていますよね。これは、何度も何度も身体を通しての経験から、潜在意識まで情報が残っているからだと先生は、おっしゃっていました。

このヴィパッサナー瞑想の経験は、今も尚、私に根付いていて、人生、日々の生活、はたまた、ヨガの練習をするときにも、役立っています。もちろん、その後も継続した練習が必要です。何を経験するのかが、ポイントではなくて、そこに確かに存在していることがポイントなのだと思います。

この「内なる旅」は、私の確かな新しいアドベンチャーでした。私達の内側には、宇宙があるのだと思います。ただ、毎日「人間」をやっていると、忙しくて、忘れてしまっているだけなのです。

一つ言えることは、もし、正しい態度で、継続した瞑想の練習を続けるならば、それに伴う経験がついてくるということ。

きっと、私達が存在する世界は、私達が思っている以上に、広大で可能性に満ちているのだと思います。それに加えて、私達は、ここに生があって、様々な経験をすることができ、それを分かち合うことのできる仲間がいるのは、本当に幸運なことなのだと思います。

この記事を書いた人

Eri Ishiguro

大阪生まれ大阪育ち。10代から20代は、ストリートダンスに没頭する。世界を旅する間にヨガに出会う。ファッション業界で7年間キャリアを積んだ後、2011年から2016年までカナダに在住。バンクーバー、そしてモントリオールにて、幸運にも経験ある先生達に恵まれ、ヨガを深く学ぶ機会が訪れる。モントリオールにて、NYTT program (500-hour Naada Yoga teacher training) を修了。その後、更にヨガの学びを深める為に、医療目線からのヨガ、500時間のヨガセラピストプログラム(Advanced Yoga trainings with the Yoga Alliance certification ) を修了。
帰国後は、TAMISAにてレッスンを担当。2018年には、YogaWorks 200時間ティーチャートレーニングの通訳を務めるなど、外国人講師の通訳士としても経験を積む。

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